太陽光発電のキーデバイス、パワーコンディショナー(以下、パワコン)は、太陽光パネルからの直流電力を家庭や企業で使える交流に変える役割を果たします。2012年7月のFIT制度開始以来、太陽光発電所は急速に増加し、多くが運用10年を迎え、パワコンの交換時期が到来しています。通常、パワコンは10〜12年での交換が必要とされ、交換コストは避けられません。2024年2月時点で、いくつかのパワコンメーカーは市場から撤退または生産を停止しており、どのメーカーを選ぶべきか迷っている投資家も少なくありません。
この記事では、4つの主要なパワコンメーカーを比較し、それぞれの特徴を解説いたします。交換の最適なタイミングや、新しい出力制御制度への対応に関する情報と合わせて、最適なパワコンメーカー選びの参考にしてください。
パワコンの交換時期は、発電事業者の判断により異なりますが、主なタイミングは以下のとおりです。
一般的に、パワコンは故障時に交換されますが、単体での交換はコストが高くなるため、コストを意識する事業者は一台の交換時に全てを更新する傾向にあります。特に、生産中止や製造から撤退したメーカー(例:日立、アイデック、三菱、ZTE)のパワコンを使用している場合、同じメーカーの製品を再購入する選択肢がないため、保証期間終了後は新しいパワコンへの更新が唯一の解決策になります。
以下のケースに該当する方は、早い段階でのパワコン交換がオススメ!故障前に交換することで、損失を最小限に抑えることができます。
低圧太陽光発電所では、システム構成としてオムロン(5.5kW×9台)や安川電機(10kW/9.9kW×4~5台)などが一般的です。パワコンは全てが同時に故障するわけではなく、1台ごとに購入・設置するコストと、全体を一括で更新するコストには大きな違いがあります。さらに、パワコンの納期は製品によって最大3か月かかることがあり、この間に売電機会の損失が発生する可能性があります。
2024年2月現在、納期が最も短いパワコンメーカーは安川電機で、最短2週間です。この情報は、タイムリーな更新を検討している方にとって重要な判断材料となります。
太陽光発電のパワコンは、発電された電気を変換するシステム機器です。各太陽光パネルで生成された電力を変換し、送電を行っています。
低圧太陽光発電所では、主に10kW(9.9kW)のパワコンを4台から5台使用するタイプと、5.5kWのパワコンを9台使用するタイプが一般的です。
パワコンが電気を変換しているため、1台のパワコンが停止すると、そのパワコンに接続された全ての太陽光パネルからの発電電力が変換されません。具体的には、1台の故障で全体の発電量の10%から25%が売電できなくなります。
近年の遠隔監視システムは、パワコンごとに発電量を監視できるため、パワコンに異常がある場合は即座に問題のあるパワコンを検知できます。
また、パワコンは落雷などにより一時的に停止することもあります。発電事業者にとっては、発電量に異常があった場合、太陽光パネルに問題があるのか、パワコンに問題があるのかを正確に把握することで、今後の対処法が異なります。
現代のパワコンには標準で出力制御機能が備わっています。これまでは出力制御は主にオフラインで行われていましたが、現在ではオンライン出力制御が一般的です。一方で、古いパワコンには出力制御機能がないため、オフラインでの出力制御が行われています。
オフラインの場合、通常のオンライン出力制御よりも多くの出力制御が可能です。そのため、売電収入を増やしたい発電事業者は、オンライン対応のパワコンに切り替えるケースも増加しています。
太陽光発電システムのキーデバイスであるパワコンを故障前に交換することのメリットとデメリットについて解説いたします。
パワコン交換のメリット
太陽光発電システムにおけるパワコンの交換には、基本的に将来の故障に対するリスクを考慮すれば有益性があります。費用においては、一気に全て交換するかどうかがポイントであり、この選択が費用に大きな影響を与えます。同時に、最新の機器や出力制御に対応することで売電収入の増加が期待できます。
パワコン交換のデメリット
パワコンの早期交換のメリットについては、理解いただけたと思いますが、1台故障した場合、故障したものだけを交換するか、全て一気にするかは各発電事業者様の懐事情によってご判断されることになるでしょう。しかし、一時的に大きな費用は掛かるものの、長期的に見ると、経済的な観点では全部一気に交換する方がお得になるケースが多いです。
パワコン全台!早期交換のメリット
パワコン全台!早期交換のデメリット
10年から12年でパワコンが故障するとしても、どのパワコンが最初に故障するかを予測するのは難しいです。しかし、いずれにせよ長年使用していれば故障は避けられません。その際、1台ずつ交換する場合と全て一気に交換する場合では費用が倍ほど異なる可能性があります。なお、パワコンの納期が現在1か月から3か月かかるため、壊れてから新しいものが設置されるまでの間に3か月の売電損失が発生します。したがって、賢明な選択としては、壊れる前に全てを交換することが経済的に有益であると言えるでしょう。
パワコンが故障した場合、一般的に、購入したパワコンの「型番」「シリアルナンバー」「故障状況」をメーカーや仕入先に報告することで、メーカーのエンジニアが現地で修理対応を行います。ただし、故障の原因がお客様の責任か、メーカー側の責任かによって、機器の送料がお客様の負担になります。
問題は、メーカーも故障原因を特定するために送られた機器を調査するが、故障原因がお客様の責任の場合、送料だけでなく修理費用や現地調査費用も別途請求されることです。その結果、修理費用が新規で購入する費用よりも高くなるケースもあります。
この背景から、故障時にメーカーに無料で修理してもらえるから安心だと思っている方は注意が必要です。やり取りにかかる工数や、故障原因がメーカーの責任でない場合は全てお客様の出費となり、新規購入費用を上回る可能性があることを考慮すべきです。
複数のパワーコンディショナーメーカーが存在しますが、ここではその中でもシェアが高く、信頼性のある4社(安川電機、オムロン、ダイヤゼブラ電機※旧田淵電機、ファーウェイ)をご紹介いたします。
それぞれのメーカーについて、企業の特徴やパワーコンディショナーの特長、ラインナップ、価格についてご紹介いたします。
項目 | 会社規模 | 商品ラインナップ | 過積載率 | 出力制御対応 | 1台価格目安※機器のみ |
---|---|---|---|---|---|
安川電機 | 1部上場 | 単相PCS1種(9.9kw/10kw) | 200%まで可 | あり | 45万円前後 |
オムロン | 1部上場 | 単相PCS4種(4.8kw/5.5kw) | 過積載率250% | あり | 16万円前後 |
ダイヤゼブラ電機 ※旧田淵電機 |
1部上場 | 三相PCS1種(9.9kw) | 不明 | あり | 42万円前後 |
ファーウェイ ※HUAWEI |
非上場 | 単相三相・PCS数種 単相(4.95kw) 三相(20kw/33.3kw/49.9kw) |
過積載率300% | あり | 10万円前後 |
新電元工業 | 上場 | 生産・販売終了中 PVS-B・Cシリーズ三相 (9.9kw/10kw) |
不明 | 不明 | ※撤退 (生産・販売終了中) |
安川電機は、東証一部上場のパワーコンディショナーメーカーで、主に「ACサーボ」「インバータ」「産業用ロボット」などの産業用製品を提供しています。同社は世界トップシェアを誇り、特に「インバータ」「産業用ロボット」分野でその地位を確立しています。
製品ラインナップには、三相型パワーコンディショナーがあり、9.9kw(絶縁・非絶縁タイプ)/10kw(非絶縁タイプ)が用意されています。
安川電機のパワコン価格・特徴は?
価格帯は約45万円前後で、産業用製品トップシェアを誇る高い技術力を活かした製品であり、新電元製PCSとの交換時には配線工事が簡易化され、工事費も抑えられます。
主な特徴は以下の通りです
■安川電機の故障時対応について
故障時の対応については、「型番」「シリアルナンバー」「症状」に関する情報を元に「安川メカトレック」に依頼すれば、現地修理対応が可能です。ただし、お客様責任による故障の場合は、送料はお客様負担となり、メーカー責任の場合はメーカー負担(着払)となります。
次に、オムロンについてご紹介します。オムロンは、産業用だけでなく、住宅用でも幅広く利用されているメーカーです。身近な商品としては体重計や体温計がありますが、特に血圧計では世界シェア50%を誇っています。同社の成長の要因は「制御機器事業」であり、売上高の46%を占めています。
太陽光においては、単相型パワーコンディショナーに4つのラインナップがあり、単相4.8kW/単相5.5kW(一般・自立運転・重塩害)が提供されています。なお、「三相PCS」KPTシリーズは現在製造が中止されており、パワーコンディショナーに関しては単相のみの取り扱いとなっています。
オムロンのパワコン価格・特徴は?
オムロンのパワーコンディショナーは4.8kw/5.5kwで約16万円前後です。一般ユーザーにも広く愛用され、中でも10年の保証期間が魅力です。他のメーカーと比較しても、納品までの時間が短いのが特徴であり、過積載率も最大250%まで可能です。
主な特徴は以下の通りです。
■オムロンの故障時対応について
故障時の対応は基本的には安川電機と同様で、製品情報と症状を仕入先に伝えることで、オンサイトでエンジニアが修理対応してくれます。ただし、故障原因がお客様に起因する場合、送料はお客様の負担となります。
次に、ダイヤゼブラ電機(旧・田淵電機)についてご紹介します。
FIT全盛期(2013年~2016年)には、田淵電機はその他の日本メーカーと比較しても手頃な価格のパワーコンディショナーとしてよく利用されました。しかし、2016年から2期連続で赤字となり、この経営悪化により2018年6月には事業再生ADR申請を行いました。
その後、2019年にはダイヤモンドエレクトリックホールディングス株式会社の100%子会社となり、社名もダイヤゼブラ電機に変更されました。なお、海外市場向け及び国内の高圧用産業用パワーコンディショナー事業からは撤退しています。
2022年現在、ダイヤゼブラ電機は三相型パワーコンディショナーとして、三相9.9kW(EPG-T99P5)を提供しています。ただし、「三相PCS」EPU/EPF/EPEシリーズは製造が中止されています。
ダイヤゼブラ(田淵電機)のパワコン価格・特徴は?
ダイヤゼブラのパワーコンディショナーは、絶縁タイプで自立運転機能が備わりながらも比較的安価で、1台あたりの価格は約42万円前後とされています。
主な特徴は以下の通りです。
■ダイヤゼブラ(田淵電機)の故障時対応について
通常、安川電機やオムロンと同様の対応が行われます。
こちらでは、世界で最も有名なパワーコンディショナーメーカーであるファーウェイ(HUAWEI)についてご紹介します。
1987年に設立された中国の企業で、通信機器(5G関連・スマートフォン)のベンダーとしてグローバルに展開しています。ファーウェイはパワーコンディショナーにおいて世界トップのシェアを誇り、日本市場でも中国企業としては1位の地位を占めています。
同社は低圧用・特別高圧用に様々なパワーコンディショナーを提供しており、2021年には住宅向けの蓄電池も販売し、蓄電システムメーカーとしての知名度が高まり、2022年には大型産業用蓄電池を日本市場に導入するなど、産業用自家消費市場への進出が期待されています。
ラインナップには低圧向けの単相パワーコン(4.95kW)だけでなく、高圧用の三相(20kW・30kW・33.3kW・40kW・49.9kW・62.5kW)もあります。
ファーウェイ(HUAWEI)のパワコン価格・特徴は?
ファーウェイ(HUAWEI)のパワーコンディショナーは、単相・三相の両方に対応した製品があり、特に日本で人気なのは低圧単相向けの4.95kW(SUN2000-4.95KTL-NHL2)です。価格帯は1台あたり約10万円前後で、保証期間は10年ですが、有償で15年・20年まで延長可能です。ただし、4.95kW以外の機種は5年間の保証が適用されます。
FIT価格の低下に伴い、コスト面と過積載可能な特長から、多くの販売店で利用されており、低圧太陽光発電所のPCSに選ばれることが増えています。
主な特徴は以下の通りです。
■ファーウェイ(HUAWEI)の故障時対応について
故障時の対応については、不具合が発生した場合、不具合申請書と遠隔監視データを送り、メーカーが確認します。調査の結果、施主・施工が原因の場合は有償でパワーコンディショナーを購入する必要があり、メーカーの責任の場合は無償で代替品を送付してもらいます。